世界に報いるニートの叫び

失うものを持たない僕の遠吠えを聞け

これから『ひるね姫』を観る人へ

 

『君の名は。』の亡霊を振り払い、物語を読み解く気持ちをもって鑑賞すればきっと楽しめる『ひるね姫』。

 

今回は、映画『ひるね姫~知らないワタシの物語~』について。

 

公開前に鑑賞する機会があったので、これから映画館で観るようと思っている人向けの記事を書く。なので、もちろん基本ネタバレ無しで感想や考察、評価みたいなものもできる限り控えた

【映画『ひるね姫 』感想・考察】ココネが挑んだ本当の敵は何か? - 如月トキヤの、世界に報いるニートの叫び←鑑賞済みの方はこっちの記事をどうぞ

 

ただ、僕は作品と視聴者の「ミスマッチ」こそが映画をつまらなくする最大の原因だと思っているので、既に公開されている情報よりは一歩踏み込むところがある。だから、全くのニュートラルな状態で観たいという人は読まない方がいい。そんな人はまず検索しないか笑

 

どうしてここまでねちねち言うのかというと、やはりこの映画が昨今のアニメ映画ブームの流れで公開されることが大きい。

どうしたって『君の名は。』の亡霊を求めて観る人が多いだろうけど、中身は全くの別物で、やろうとしていることも正反対と言っていいくらい。そして叩かれるのは絶対こっちの映画だと思うと、忍びなくなったのでこの記事を書いた。

 

あと、ブームに乗り遅れたくないから『ひるね姫』を観るって人は心配しなくていい。絶対流行らないから。

僕はどっちも好きだし、もちろん人気が出てもおかしくない作品だけど、少なくとも『君の名は。』みたいな大ヒットになることはないと思う。

 

 

あらすじ

岡山の高校生ココネは最近、科学と魔法がせめぎ合う不思議な王国の夢を見ていた。だが、その夢につられるように平凡な日常が歪み始める。 現実では唯一の家族である父が逮捕され、夢では怪物が王国を襲う。
答えを求めココネが走り出すと、夢と現実、そして家族の過去と日本のいまが交差し始める。 
小さな世界に生きていた少女は、より大きな世界に飛び出していく…

なんでわざわざ自分であらすじを書いたかって言うと、『君の名は。』とは全然違うよってことが言いたいから

 

『動物農場』の考察を書いたときから140字要約を目指してたんだけど、一回で挫折した。

いま読み直す【小説『動物農場 おとぎばなし』感想】 - 如月トキヤの、世界に報いるニートの叫び

でも、この要約しにくいストーリーこそ『ひるね姫』の魅力であり、欠点でもある。

 

 

『ひるね姫』の特徴

この映画のストーリーの特徴は、主人公であるココネの夢と現実が重なり合って進んでいくこと。劇中では、夢と現実の場面が交互に展開していく。そこでは、いわゆる映画批評によく使われる「リアリティ」のようなものはあえて排除されている。

だからこの映画を観る際には、現実と夢をリンクさせていく作業と、楽しもうとする心構えが必要になる。「ついていけねーわ」とか言い出すともうだめ。

その意味では、『君の名は。』ほど思考停止状態で楽しめるド直球の作品ではないと思う。ただ、決して難解な話というわけではないので別に構える必要はない。 

 

 

本当の魅力は夢パートにある

『ひるね姫』の監督は、『攻殻機動隊S.A.C』や『東のエデン』を手掛けてきた神山健治氏。彼がこれまで描いてきたのは、どこか社会性のある物語であり、そこには「世界」や「現代」を相手にした問題提起が含まれていた

だが、彼は本作を制作するにあたって、現代では視聴者の生活から距離がある重く深刻なストーリーは好まれないという趣旨の発言をしている。*1

『ひるね姫』は一見すると、岡山県倉敷に住む女子高生の家族を軸にしたミニマルな物語だ。けれど、その夢パートにはどこか普遍性のある現代的なテーマが織り込まれている。そしてそれは、現実の場面と絡み合うことでメッセージを放つ。

夢に登場するメタファーの意味を考えてみれば、ココネが戦った敵は、小物感溢れる典型的な悪役1人だけではなかったことがわかるはずだ。

 

 

まとめ

僕は、良質なエンターテインメントには2種類あると思っている。1つが、現実の苦しみから解き放ってくれるもの。そして2つめが、現実の問題に目を向けさせるものだ。

受け取り方は人それぞれだけど、『ひるね姫』は後者として見た方が楽しめると思う。

 

『ひるね姫』は、今僕らが感じている閉塞感から目を背けさせてくれるわけでも、ましてやそこから解放してくれるわけでもない。けれど、それと向き合い、乗り越えるための一つの手がかりにはなってくれるはず。

裏を返せば、ポップな雰囲気なのにどこか説教臭いともいえるこの映画は、扱われているテーマへの当事者意識がなければ全く響かないものになってしまう。

この映画がこれから厳しい評価を受けてしまうとすれば、非常に勿体ないと思う。