【ユニクロとビッグデータとの不協和音】~商品開発短縮への危惧~
UNIQLOが生産体制を改革するという話を聞いて少し不安になったという話…
本当は好きなのに、つい悪く言ってしまう。
そんな皆の「気になるあの子」的存在、UNIQLO。
そんなユニクロが生産体制を改革するそうなのでそのデメリットをあくまで主観的に考察した。
序文
柳井氏いわく、ユニクロは「顧客中心主義」を追求し、デジタルの力を使って顧客の求めるものをすぐに商品化していく「情報製造小売業」を目指すそう。
出典:トップメッセージ | FAST RETAILING CO., LTD.
もちろん、より消費者のニーズを取り入れた商品を、より速いサイクルで生産する、という発想は素晴らしいものだ。
「売れるものを作る」というのは小売ビジネスの命題だし、情報化と多様化が進んだ現代においてそのサイクルの回転率を上げることは時代の流れといえる。
しかし、僕が基本的に後ろ向きで斜に構えてしまう気質なためか、このニュースを純粋な吉報として受け取ることができなかった。
特に、ビッグデータと「顧客中心主義」の組み合わせにを危惧してしまうのは僕だけだろうか。
今回は、このユニクロの商品開発短縮のニュースを、僕らしく後ろ向きに考察していく。
ユニクロ生産体制改革、報道の要旨
http://www.sankeibiz.jp/business/news/170126/bsd1701260500001-n2.htm
まずは、今回の話題である、ニュースの要点を整理する。
ユニクロはサプライチェーンの改革で、生産期間を従来の1年から2週間に短縮する。
商品開発や在庫の管理にはビッグデータや人工知能を活用し、顧客のニーズをいち早く反映した商品開発を行う。
また将来的には、「素材調達・企画・デザイン・生産・販売までの工程をインターネットでつなぎ、同時並行で作業する態勢に移行する」ことを目指す。
以上が、報道の要旨。
ここからは、これに対する考察を書いていく。
ユニクロに求めるもの、ファストファッションとの違い
https://otokomaeken.com/mensfashion-news/14547
ユニクロ製品の特徴といえば、低価格と高品質だ。
高品質といっても、「価格の割に」という注釈が必要ではあるが、ただ安いだけの服との間には大きな違いがある。
その違いを裏付けるのは、ユニクロ独自の生産体制だ。
「ユニクロ 成功した理由」とでも検索すればいくらでも情報が転がっているだろうし、ここで新たに議論するには手垢のついた話題だろう。
なのでここでは、話を先に進めるために、ユニクロの生産体制の特徴的な要素をざっくり3つだけ書く。
まず最初の2つ。
① 購買顧客層を限定しないことで大規模な生産体制をつくり、低価格での供給を可能にする。
② 自社工場を持たず提携工場や生地メーカーに生産を委託することで、独自性のある製品開発ができる。
皆が着られて、安価、そして品質もそこまで悪くない。
(当然シルエットはいまいちになる)
多くの人をそこそこに満足させるユニクロの「標準化された服」は、この2つの生産体制によって生み出されている。
③ ベーシックに的を絞った企画生産
ZARAやH&Mといったファストファッションとしばしば混同されるユニクロだが、リアルタイムでトレンドをコピーするこれらとは違いがある。
それは、ユニクロがベーシックな商品をマイナーアップデートして販売する、いわば「スローファッション」だということだ。
これは僕の主観だが、ユニクロで素材とシルエットどちらも完璧と言える商品を見たことがない。
それでも、ジーンズやスウェットなどベーシックなアイテムについては、価格に対する品質としてはバカにできないものもある。
それは、これまでのアップデートの集積によるところだろう。
余計なことやってる服も沢山あるけどね…
僕は最近よく聞く「ユニクロだけでオシャレになれる」という意見には懐疑的だ。
でも、現実的に全身全てのアイテムにお金を掛けてもいられないわけで、部分的に「ここはユニクロでいっか」というポイントがあるのも当然だとは思う。
なにもワードローブのエース級を期待してなんかいない。
日常着をわずかに底上げするだけの、無色透明な1パーツでいい。
僕がユニクロに期待するのは、安価かつ比較的良質なベーシックアイテムだ。
生産期間の短縮が蝕むもの
上で書いたように、ユニクロは1ロットあたりの生産数増やすことで、品質の安定化と生産コストの低下を実現してきた。(ロットの使い方合ってる?笑)
だが、商品企画から販売に至るサイクルを高速化するということは、生産に小回りが利く一方で、1ロットあたりの生産量が減少することになる。
それは、これまで低価格での供給を可能にしていた仕組みが崩れることになり、素材の質を下げることにならないだろうか。
そして、企画や素材調達、デザインなどを並行的に進めることになれば、生地メーカーと共同で行う、商品に合わせた素材開発も難しくなってしまうかもしれない。
ビッグデータと「顧客中心主義」が招く悲観的な未来
そして、僕が最も恐れるのは、ビッグデータと合わさった過度な「顧客中心主義」だ。
既存の商品に対して「ここがもっとこうだったら…」と思うことは、誰しも経験があるだろう。
それをゼロに近づけていくのはモノづくりの命題であり、過去の反省や成功体験、現場の意見をモノづくりに活かすのは当然だ。
だが果たしてユニクロにおいて「顧客中心主義」が進行したとき、何が起きるだろうか。
ビッグデータをどう収集し、どう用いるのかは不明だが、それを整理し、価値判断することは少なくともしばらくの間人間の役目だ。
商品開発とビッグデータの関係は、民主主義における意思決定と多数決の関係に似ている。
つまり、「売れる商品」を作るためには、より声の大きい意見から取り入れていくことになる。
ビッグデータの活用で、これまでトップダウン的に行われていたアイテムの生産は、ある意味で「民主化」することになる。
そこで問題になるのが、ユニクロの購買層だ。
ユニクロには、どう見てもファッションに興味のない人や、中高年の消費者も足を運ぶ。
全国に多くの店舗を展開し、ファッションに興味のない人の大きな受け皿として機能しているユニクロが、多数派の意見を基に商品づくりを行うとどうなるか。
これまでイケてもいないがダサくもないバランスを保ってきたユニクロのアイテムが、どんどん着やすく(ダサく)なっていくというのは、あまりに悲観的な未来予測だろうか。
ユニクロの「顧客中心主義」は大衆迎合的な、文字通りのシルバーデモクラシーに堕してしまうかもしれない。
もちろん、「売れる服を作る」という目的には近づくだろう。
だが、そんなユニクロの目的意識の中に、ファッションの最底辺ラインを押し上げるという一アパレル企業としての矜持を放棄し、その最底辺を拡大して利益を上げることに終始する営利企業としての危うさを見るのは僕だけだろうか。
「UNIQLO U」にみる希望
http://www.uniqlo.com/jp/2017SS/
当然、上で書いたようなことは企業側も危惧しているはずで、そこまで極端な事態にはならないとは思う。
なにより、僕みたいなニートなんかよりもずっと賢い人間が一日中頭をひねっているはずだ。(きっと)
だが、ユニクロのアイテムが今以上に「標準化」していくことは予想できる。
そこで期待したいのが「ユニクロU」だ。
2016秋冬には、それまでの「ユニクロ・ルメール」というシーズン単位のコラボが、やや高価格な別ライン「ユニクロU」となった。
当時は、その時打ち出していた低価格路線への回帰を受けたものと考えていたが、通常ラインが「下向きの標準化」を加速するなかで、ユニクロ内での棲み分けを明確にする意図があるのかもしれない。
つまり、「Uライン」は比較的ファッション感度の高い人向けに、上向きに(オシャレに)動いていく可能性がある。
企業側も、ファッション感度の高い消費者とそうでない消費者の意見が混じり合ってキメラのようなアイテムが生み出されることは避けたいはずだ。
2016秋冬発売時には多くの人が、「通常ラインと変わんなくね?」と感じたであろう「Uライン」だが、ここにきて大きな差別化の意図があったのではないかという気がしてきた。
そもそも「U」は、ルメール氏率いるパリの商品開発センターで企画開発されている。
ベーシックのなかに、一ひねりのデザインが加えられた服が多く、個人的にはその「一ひねり」が好きになれないものが多かった。
だがそれは、クリエイティブ主導の従来のトップダウン寄りなモノづくりとしての証左でもある。
同時に、「ルメール」というデザイナー個人のラベルを排したことにも、よりベーシックなアイテム作りを目指す意図があるのかもしれない。
個人的にはユニクロUの商品をみても、Tシャツなど一部のものには安価で比較的高品質なベーシックというユニクロの真骨頂を見たように思う。
この「ユニクロU」が良品を作っていくのならば、僕が抱くユニクロへの期待はそこまで裏切られることはないのかもしれない。
いずれにしても、2017春夏はこのユニクロの2ラインそれぞれの方向性が明確化してくる分水嶺になる可能性がある。
特に、2016年秋冬では多くの商品が期待外れに終わったユニクロユーの挽回に期待したい。
だが、そもそもこのサプライチェーンの改革について詳細の発表はまだなので、今は想像することしかできない。
むしろ今回は先走り過ぎた感すらある。
今後の経過を見守っていくことにする。